オリンピックのロゴの話、本当にイヤです。

パクリかパクリでないか、真偽のほどはともかく
大勢でアラを探して
安全圏から個人を総タタキして吊るし上げている
今の状況がすごくイヤです。

なので個人攻撃はしません。
でも、今回のことで色々考えさせられて思ったことを
どうしても書きたくなりました。

テーマは「アレンジ」について。

あのデザイナーさんがパクったパクってないか真偽はさておき
友人と議論をしていてモノ作りにおける
「アレンジ」「リスペクト」「サンプリング」
の話になりました。

東京オリンピックのエンブレムが
最初、ベルギーのデザイナーに訴えられたときは
「まさかオリンピックのエンブレムを簡単に他所からパクるなんて
 普通ありえんやろ。
 それにしては似ているけれども。
 偶然とはいえあんなに似るものなんかねえ……」

という感じで思っていて
別のグラフィックデザイナーの友人に質問をぶつけたところ
「シンプルな書体とデザインだから、偶然似たものができてしまう 可能性は充分ある」
と教えてもらいました。 

そしてその後いろんな事実が発覚して
サントリーはアウトだけれども
空港の写真は内部資料用だからまあ勘弁してあげてよ
とかまあ、いろいろ思うところはあったわけですが
「天下のオリンピックのエンブレムをパクるなんて、そんな馬鹿な こと誰がするんだよ?」
という気持ちでおりましたし、それは今も変わりません。
本人がどんな人なのかも知らないし、仕事ぶりも見てないのに何も言えないでしょう、ネットって怖いなあ……と。

でも……
最初に提出されたという応募作品と元ネタといわれているチヒョルト展のタイポグラフィーが並んだときに
わたしは「ああ、これをアレンジしはってんな」と思ってしまったのです。
あくまでご本人は違うと言っておられるので、わたしの感想にすぎませんが。

わたしが一番モヤモヤしたのは、自分のことでした。
「どうしてそう思ってしまったんだろう」
ということにです。
話題のデザイナーさんがパクったかパクってないかはどうでもいい。アレンジや影響を受けることとパクリの境目ってどこにあるの、というのもあるし、簡単に答えなんて出ませんから。

それを友人と議論していて、やっと自分で理解ができました。

原因は、元ネタだといわれているチヒョルト展のタイポグラフィーの圧倒的な美しさでした。

グラフィックでも工業製品でも何でもそうだけど
バランスというのは本当に大切で
一本の線、一個の丸、空間、背景、全体のライン
これらが絶妙に配置されたときに、美しく力のあるものが生まれるのだと思います。

だからデザイナーは、文字と文字をどれだけ詰めるかでさえ、ミリ単位で苦心を重ねて一番美しい場所を探す。
逆にいうと一ミリでもずれたら、ベストの形には辿り着けない可能性もあるのです。

かのブルーナさんも、ミッフィーの目を描くときは
本当に魂をこめて全力で描き入れるらしい。
(手
きなので一発勝負なのです)
少しでもずれたら、ミッフィーはミッフィーに見えなくなってしまうでしょう。
デザインがシンプルなものほど、繊細で微妙なバランスのうえに奇跡のように完成している。ゆえに、美しく力がある。

だから結局シンプルなものほど
「苦心を重ねて最髙の場所を見つけた結果が人とすごく似てしまう」
というのはあり得ると思うのです。
だってそのバランスが一番美しい「唯一の正解」の位置なのだから。
友人のいうとおり、ものすごく低い確率だけど、ゼロじゃない。

でも、アレンジというのは、その「唯一の正解」を真似るわけですから、どうしても元ネタを変えないといけない。
すると「正解」からズレてしまわざるをえないので、どうしてもオリジナルの作品より劣化する。

そういうことなんだろうなあ……。
アレンジではなくしっかり考えて作ってたとしたら
もっと違うものが生まれたんじゃないかな…と、思ってしまったのです。
 
ずっと憧れていて影響を受ける、とか。
アイデアの骨子を真似て別モノをつくるとかは
全然いいのです。
この世の中に完全なオリジナルなど存在してないし
誰だって何かしらの影響を受けているのだから。

自分なりに色々苦心したら、それが痕跡となって
ちゃんとその人なりのオリジナルになると思う。

アレンジやサンプリングも否定しません。
ヒップホップという音楽もサンプリングの塊だけど
それを超えてちゃんと二次制作になっている。

ようはモノ作りの姿勢の問題なのかも知れません。
出来上がったモノの格好良さだけを
上手にいただいてアレンジするというのは
結局、オリジナルの劣化にしかならないと思います。

それなりに時間もかかってるし、自分なりに頑張ってるはずだし。
なのに結果、誰かの二番煎じ、しかもそれよりレベル下って
そんなの何が楽しいだろうねえ、と思ってしまうのですが……。

長く広告業界に片足をつっこみ
プロアマ問わずまわりに作家が大勢いて
自分も創作の仕事をしていると
「剽窃問題」というのは常にかたわらで勃発しているものです。
あんな偉い国家レベルのデザイナーさんの話じゃなくてもゴロゴロある話です。

原稿書きでは「リライト問題」というのがあり
参考にした文章のリライトがヘタくそだったりすると
剽窃問題になったりするのです。
わたしも一度本屋で立ち読みしたお店の紹介文が
どう考えても昔わたしが書いたものがちょっとだけ変えてある文章でずいぶん居心地の悪い気持になりました。
「もうちょっと上手にやってくれたらいいのに……」
と思ったっけ。

翻っていえば、自分も資料書きをするとき、同じミスをしないようにしなければならないのです。

自戒を込めて。
ちゃんと真摯にモノ作りをしよう。
苦しんで苦しんで、ベストを尽くそう。

そう思いました。